憧れのプレイヤーや尊敬する先生がいる場合、楽器本体もそうですが、ストラップなどの小物も同じものを使ってみたくなるものです。

そのストラップですが、ぼくはもう永年「BG」というメーカーの斜め掛けタイプを使っています。たまぁ~に同じのを使ってみたいという方が現れますが、うーん、どうでしょう、率直に言ってあまりお薦めはしません。首に掛けて吹く方が、やはりコントロールしやすい。現に他に使ってる人は殆ど見かけませんし。
これを使い始めたのは、特に誰かが使っていたから、というのではなく、他に選択肢がなかったに過ぎません。ぼくが学生の頃は今ほど色々な種類はなかったのですね。

学生の頃、ごく一般的な首かけタイプを使っていたら、ある時期から背骨に違和感を感じるようになりました。なんというか、ムズムズするような、背骨を虫が這うような不快感です。
で、近くの「骨屋さん」に楽器(アルト)持参の上で診てもらったところ、
「こんな重いモン、首にかけとったらアキマセンで」
と言われたのですね。アキマセンで、と言われてもそれが(学生とはいえ)生業ですから、困りました。しかしこのままいくと将来的に呼吸器系統の不具合が起きるかも、なんて言うから穏やかではない。
まぁとにかく首に負担のかからないもの、と探し求めましたが、せいぜいストラップ本体の幅が広いとか、両肩にかけるタスキ掛けのものくらいしかありません。タスキ掛け、というのは今でも売られていて、確かに首への負担は限りなくゼロに近いのですが、なんというか着脱が非常に面倒なのですね。破れたTシャツを着るような感じで。
しかもあっちが捻れこっちが絡まり、朝着けたきり一日中そのまま、ならよいけれど、日に何度も着けたり外したり、ということを考えるとどうにも億劫だ。
あと、楽器を吊るフックが樹脂製で、楽器の全重量を預けるには若干不安がありました。そんなこんなで他に良いものがないかと物色していたら、楽器店の片隅に「斜め掛けワンショルダータイプ」というのがあるではないか!フックもスチール製だし、これは良さそうです。早速手に入れて楽器を吊ってみました。

・・・非常な違和感。ナンダこれは?
それまで使っていた、首に掛けるタイプとは支点が変わるせいか、非常に不安定な感じです。なにしろ大きな輪っかの途中にフックがついているだけ、という構造なので、左肩にかけると、楽器本体は常に体の右側にズリ落ちようとします。それを左右の腕全体で前に押し出しながら吹いている、という塩梅です。
サックスの場合、多くの人は上の歯にマウスピースを固定して吹くと思われますが、重力に従って常に楽器が上歯から離れようとするわけで、これもまた制御しにくい。

ではナゼそういう使いにくいものを使い続けているのか?
まぁ石の上にも三年、ではないですが、要するに慣れるのですね、大抵のことには。ぼくの場合は、オーソドックスな首かけタイプを使い続けると具合が悪い、ということはハッキリしていたので、首の負担がないことと、着脱のしやすさ、そして持ち歩きしやすいこと、というバランスがとれたのがこのワンショルダータイプだったわけです。
昨今は、かつての状況からは想像できなかったほど選択肢が増えましたが、体への負担は少ないけれどとにかく嵩張るとか、服装を選ぶ、立ち座りに難がある、高価であるなど、どれも一長一短です。

純粋に体への負担だけを考えるなら、例えば天井から楽器を吊るして、あるいは高さのあるスタンドに立てたままそこで吹く、というのがいいのでしょうが、それでは身動きできないし、現実的ではない。
どこか体の一部で支えつつ吹くしかないわけですが、いつの日か「その手があったか!」と膝を打つような、画期的なストラップ(か、それに代わる何かの仕掛け)が発明されるのを期待しつつ、今日も楽しく楽器を吹くことにしましょう。

担当講師紹介

泉 かずしげ

Kazushige Izumi

大阪音楽大学器楽科サクソフォン専攻卒業。赤松二郎氏に師事。
アロージャズオーケストラではバリトンサックスを担当、北野タダオ氏、宗清洋氏らの薫陶を受ける。岩崎宏美、押尾コータロー、角松敏生、北村英治、木村充輝、ゴンチチ、日野皓正、松任谷由実、渡辺真知子他、内外のアーティストと共演する。
「古谷充ネイバーフッド・ビッグバンド」ではバリトンサックス、歌手大西ユカリのバックバンド「仁義なき小林バンド」にはテナーサックスで参加。

また歌い手としての顔も持ち、1992年結成のアカペラコーラスグループ「Be in Voices」ではリーダーを務め、レパートリーの大半の作/編曲を手がける。
ハワイ、フィリピン、中国、韓国など海外公演の他、幼稚園から高等学校まで全国での学校公演や、NHK教育テレビ「シャキーン!」でその歌声と演奏は子供たちにも浸透、映画/TVドラマ「妖怪人間ベム」の中では、のこぎり奏者のサキタハヂメと共にコーラスと演奏を担当する。
2014年8月に韓国で開催されたアカペラの祭典「Vocal Asia2014」には日本から唯一のゲストとして出演するなど、着実にファン層を広げている。

アローミュージックスクール代表。

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